朝日新聞柏支局長のコラム
被爆地への派遣
「参加した子どもたちはその後、とても成長するんです」。我孫子市長は7月末の定例会見で、市から被爆地の広島や長崎に中学生を派遣する恒例事業を説明しながら、目を細めた。参加した生徒は帰宅後、社会に対する関心が高まり、考えが深まるという。
派遣事業は、2005年から8月に実施している。戦争や原爆の体験者の高齢化が進み、恐ろしさや悲惨さを直接伝える人が減る中、被爆の実相や平和の尊さを次世代に伝えようというのが狙いだ。市長は毎年のように同行している。
私は10年前、元軍人の話を聞き書きする連載を書いた。満州にいた兵士は終戦直後、産気づいた日本人を見捨て逃げた。ある下士官はフィリピンで捕虜をひと突きで殺害、他の兵士が飢餓から死んだ仲間の太ももを食べる姿も見た。証言した皆さんは当時90代だった。
第2次世界大戦は、今や歴史に変わりつつあるが今もまた新たな戦争は起きている。それは日本に暮らす私たちにとって決して遠い海の向こうの話ではなくなっている。
派遣事業の参加者の中で、市役所など公の仕事に就く人も増えているという。世界で新たな戦争の機運が高まる中、若い頃の被爆地訪問で視野を広げた人材が活躍することを心から願う。
朝日新聞柏支局長 斎藤茂洋