朝日新聞柏支局長のコラム

　　米国に住んでいた時、「スーシィー(すし)」「スキヤーキィ(すきやき)」「カラーティー(空手)」は米国人でもひんぱんに使う言葉だった。あこがれも含まれた好奇心が強く感じられ、やがてロックの大ヒットアルバムのタイトルの影響で、「ブドカーン(武道館)」も加わった。
　一方で、アジアの人々に偏見を持つ人たちも残念ながらいた。日本人を蔑視する「ジャップ」という言葉は、私自身は一度も聞いたことも、言われたこともない。そのかわり、アジアに偏見を持つ人たちは国籍に関係なくグループとしてみているようで、アジアの人々をまとめて見下すような差別用語を使っていた。
　今年に入り、米国でアジア系市民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が深刻化している。ニューヨークでは3月末、65歳の女性が差別発言と激しい暴行を受ける事件が起きた。アジア系へのヘイトクライムはニューヨークで10件以上確認されているといい、コロナ感染拡大が背景にあるとみられている。
　大きな困難に直面すると、理不尽なかたちで標的をつくり、攻撃する人が登場する。歴史上、繰り返されてきた悲劇だ。もう終わりにして、人種が違っても、共存して生活できることを願う。自然体でいい。憎しみや暴力からは、何も生まれない。

朝日新聞柏支局長　石原剛文