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朝日新聞柏支局長のコラム

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初めての光景

 五輪を初めて見たのは小学校6年生の時、当時住んでいた米国で開催された冬のレークプラシッド大会だった。男子スピードスケート5冠に輝いたエリク・ハイデン選手に、当時無敵の旧ソ連を破った男子アイスホッケーチーム。米国勢の大活躍に、だれもがくぎ付けだった。フィギュアスケート女子6位入賞の渡部絵美選手は、初めて見た日本代表だった。
 同じ年にあった夏のモスクワ大会は、前年の旧ソ連によるアフガニスタン侵攻の影響で、西側諸国がボイコットする事態になった。東西冷戦の中、米国内では旧ソ連への批判の声が大きく、五輪に参加すべきか否かの議論があったのかどうか、記憶にないほどだ。日本国内では選手らが参加を求めて涙を流して訴えていたと、後に日本に帰国してから初めて知った。
 今回の東京五輪は、そうした光や影とも違う、初めての感覚で迎えることになった。開催前の高揚感はなく、「本当に開催できるのか」と考えてばかりいた。一方で、アスリートたちの競技に向き合う姿はすばらしかった。大会を支える人 々には頭が下がった。
 高度な技術、大声援、そして国際交流。五輪はこれまで、そうした光景が当たり前だった。開催の賛否が分かれ、客席は無観客。今回のような五輪の姿は今回だけであってほしい。そう強く願っている。

朝日新聞柏支局長 石原剛文

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